第 28 章 モータマウント¶
モータを筐体に 安定に固定 する方法を扱います。駆動部(第 27 章)でモータと車輪を結合しても、モータ自体が筐体に対して安定していなければ、走行中にガタが出たり振動が増幅されたりします。
この章で壊しやすいもの
- モータ軸(片持ちマウントで軸が垂れる、長時間で軸受が焼損)
- マウント部材(振動で緩む、3D プリント品にクラックが入る)
- ねじ(オーバートルクでなめる、振動で緩む)
- 3D プリントマウント(モータの発熱で変形する)
最短で失敗しないマウント手順
- 既製ブラケット + D カット対応車輪の組み合わせから始める
- ねじは仮締めで芯を合わせてから本締めする
- モータ周辺の締結だけは緩み止めを標準にする
- 連続 5 分運転で温度と異音を確認してから本運用に入る
この章のゴール¶
- 片持ちマウントのリスク を理解し、両持ち支持(軸受追加)の判断ができる
- モータの種類別のねじ規格(N20、FA-130、ホビーサーボ、NEMA17)を把握する
- 振動対策(緩み止め、防振)の基本を実装できる
1. 動機:モータは「支点が肝心」¶
モータの回転軸は、内部のベアリングで支えられています。しかし多くのホビー用モータ(FA-130、N20 ギヤードモータ等)の 内蔵ベアリングは最低限 で、軸先端に大きな横向き荷重をかけると:
- 軸が下に垂れる(微小だが累積で効く)
- 内蔵ベアリングが偏摩耗する
- モータ本体の軸受部が発熱する
これを避けるには、外部で軸先端を支える か、横荷重を最小化する配置 にする必要があります。
2. 素朴な(NG)設計:片持ちマウント + 先端に車輪¶
NG 例¶
- モータ:N20 ギヤードモータ(軸 φ 3、軸長 10 mm)
- 車輪:φ 40 mm、重量 20 g、モータ軸の 先端 に固定
- マウント:L 字の 3D プリント部品、ねじ 2 本で底板に固定、軸受なし
何が起きるか¶
- 車輪の自重(20 g)が軸先端にかかり続ける
- 走行中は地面からの反力(加速時の押し戻し)も加わる
- モータの内蔵軸受に常時モーメント荷重がかかる
- 数時間〜数日の稼働で、軸の先端が目に見えて下がる
- 車輪が斜めに回って、直進性が悪化する
- 最悪、モータ自体が焼損する
3. なぜダメか:モーメント荷重の集中¶
3.1 モーメント = 力 × 距離¶
軸先端にかかる力が同じでも、マウントから先端までの距離 が長いほど、内蔵軸受にかかる モーメント は大きくなります。
- 車輪が軸の根元にある:モーメント小(軸受への負担小)
- 車輪が軸の先端にある:モーメント大(軸受への負担大)
ホビー向け N20 の軸長は通常 10〜13 mm ですが、これの先端に車輪を付けると、軸受から車輪までが 10 mm 程度あり、車輪質量の数倍の力が内蔵軸受にかかる ことになります。実害としての症状:
- 運転中は内蔵軸受に異常な摩擦が発生 → 軸受部の発熱(触れないほど熱くなる)
- 内蔵軸受のボールや樹脂ブッシュが 偏摩耗 → 数十時間〜数百時間でガタが出始める
- モータ軸の中心がずれる → 車輪が斜めに回って 直進性が悪化
- 最悪:軸受が焼損してモータ本体ごと交換が必要になる
3.2 動的な増幅¶
静止時だけでなく、走行時の加減速・振動 でさらに増幅されます。
- 段差や小石を乗り越える → 瞬間的な衝撃が軸先端に
- 急加速・急停止 → 慣性力が横方向に
- 長時間の振動 → 疲労破壊の蓄積
3.3 「片持ち」の見分け方¶
- モータが 1 点でしかねじ止めされていない → 片持ち
- モータのハウジング側だけで支えている → 片持ち
- 軸の先端に 外部ベアリング がない → 事実上の片持ち
4. 正しい設計:軸受追加 or 配置の工夫¶
4.1 両持ち支持の実装¶
モータ軸の 先端近く に外部ベアリングを追加して、2 点支持にします。
- ベアリング選定:608ZZ(第 19 章 §4)が汎用的
- 筐体にベアリングハウジング(圧入穴)を設計
- モータと軸受の間に車輪を配置する(車輪が両端から支えられる形)
3D プリント筐体なら、モータハウジングとベアリングホルダを一体でプリント するのが最もシンプルです。
4.2 配置の工夫(軸受を使わない選択肢)¶
軸受を追加する余裕がない場合:
- 車輪を軸の根元近く に配置する(モーメント小)
- モータを軸方向にずらして、車輪が筐体内に収まる構造に
- ホビー用モータ付属のマウントブラケット を使う(軸先端側にも支持構造を持つタイプを選ぶ。判別ポイントは「モータ本体だけでなく、軸が貫通する先にブラケット or ベアリングホルダがあるか」。Tamiya のダブルギアボックスや、Pololu の N20 マイクロメタルギアモータ用ブラケットがこのタイプ)
4.3 モータ別のマウント規格¶
| モータ | 取付けねじ | フランジ形状 | 備考 |
|---|---|---|---|
| N20 ギヤードモータ | M2 × 2 本(前面) | 12 × 10 mm 程度 | モータ本体に直接タップ穴、3D プリント品と直結しやすい |
| FA-130(タミヤ) | M2 × 2 本 or マウント圧入 | 端面ねじ穴 | 純正マウントブラケットあり |
| ホビーサーボ(SG90 等) | M3 × 4 本(本体の耳部分) | 本体 23 × 12 mm | サーボブラケット既製品多数 |
| NEMA17 ステッピング | M3 × 4 本(前面フランジ) | 42 × 42 mm | 3D プリンタ流用なので選択肢多数 |
| DC ブラシレス(BLDC) | 型番による | 型番による | データシート必読 |
4.4 ねじの取り付け順と工具アクセス(見落としがち)¶
モータマウントは 「ねじを締める工具がちゃんと届くか」 を設計段階で確認しないと、組立途中で手が止まります。特にありがちなのが:
- モータを筐体に入れたあとでないと、マウントねじが見えない位置にある → しかしモータを入れると、そのねじが壁や他部品で隠れる → ドライバが入らない
- 両持ちマウントのベアリングホルダ側のねじが、モータ本体に隠れてドライバが届かない
- N20 モータの前面 M2 ねじを、モータを筐体に挿入してから締めようとする → モータで塞がれてアクセス不可
対策:
- 「ねじを先に仮通ししてからモータを入れる」 順序が成立するか、CAD で確認
- ねじ頭の真上に 30 mm 以上の空間 を確保(§6 図参照は 第 26 章 §6.2)
- どうしても狭い場所に締結が必要なら、ボールポイントの六角レンチ(ヘッドが斜めでも入る)を用意
- それでもダメなら モータ固定を片方だけ/差し込み+ピン留めに変える(分解組み立ての頻度を下げる)
無理な工具操作は怪我のもと
狭い場所でねじを締めようとしてドライバが滑ると、刃先が手のひらに突き刺さる 事故が起きます(ホビー工作で意外と多い怪我)。工具が入らないことに気付いたら、「設計を直す」を最初の選択肢にする。力任せに回さない。
5. 振動対策¶
モータは必然的に振動を発生させます。筐体・マウントに対して振動対策がないと、稼働中に ねじが緩む・マウントが疲労破壊する・制御精度が落ちる といった症状が出ます。
5.1 緩み止め¶
| 手段 | 効果 | 備考 |
|---|---|---|
| スプリングワッシャ | 弱〜中 | 最も簡易、1 円未満 |
| ナイロンロックナット | 中〜強 | 振動には強いが、何度も着脱する場所には不向き |
| ねじロック剤(ロックタイト 222) | 強 | 後で外すには溶剤か加熱が必要 |
| 歯付きワッシャ | 強 | 締結面にわずかな跡が残る |
振動するモータ周辺は、スプリングワッシャ + 平ワッシャ を標準とし、特に重要な箇所(モータ取付ねじ)には ねじロック剤 を追加するのが実用的です。
5.2 防振ゴム¶
モータの振動が筐体に直接伝わるのを防ぐために、ゴム製の防振部材 をマウントとモータの間に挟みます。
- ラバーグロメット(ゴム製の筒状部材)
- ウレタン防振ブッシュ
- ゴムシート(単純、薄型)
ただし防振ゴムは モータの位置精度を悪化 させる副作用があります。車輪駆動のような精度が重要な用途では、まず振動源自体の抑制(アンバランス解消、第 29 章)を優先し、それでも足りなければ追加します。
5.3 熱対策¶
PLA 3D プリントのマウントは、モータの発熱で変形 することがあります。
- PLA のガラス転移温度:約 60℃
- 高負荷モータの表面温度:容易に 50〜70℃
- PLA マウントは ストール状態や長時間運転 で軟化 → 形状が崩れる
対策: - PETG や ABS を使う(ガラス転移温度は 70〜90℃) - モータと 3D プリント部品の間に金属プレートを挟む(熱の橋渡し防止) - モータ周辺に通気スペースを確保
6. 動作確認チェックリスト¶
6.1 組立直後¶
- モータを手で揺すって、マウントにガタがない
- モータ軸を指で持って 先端を下に 100 g 相当(水の入ったペットボトルの軽量版程度の力)で押したとき、垂れが 1 mm 以下(目視でほぼ動きが見えないレベル)
- すべての取付ねじが適切なトルクで締まっている(第 24 章 §2)
- 緩み止め(スプリングワッシャ / ナイロンナット / ねじロック剤)が入っている
- モータと周辺部品のクリアランスが十分(第 24 章 §4)
6.2 稼働中¶
- 稼働中にモータ周辺から 異音(カタカタ、カラカラ)がしない
- 筐体を触って 過度な振動が伝わらない
- モータ表面の温度が、触っていられるレベル(第 8 章 §5)
- ねじに 緩みの兆候(微動、色の変化)がない
6.3 長期使用後¶
- 1 時間以上の連続稼働後、ねじが緩んでいない
- マウント部材に クラックや変形 がない
- モータハウジングと車輪・筐体の間隔が変わっていない(垂れが進行していない)
7. よくあるトラブル FAQ¶
モータ軸が垂れ下がってきた
片持ちマウントで、内蔵軸受が負けている兆候。 - 対策 1:外部ベアリングを追加 して両持ち化 - 対策 2:車輪を軸の根元近く に配置し直す - 対策 3:モータを大きめのもの(内蔵軸受が大きいもの)に変更
走行中にモータマウントからガタガタ音がする
ねじ緩み、マウントの剛性不足、ベアリングの斜め圧入のいずれか。 - まず全ねじを再締め(スプリングワッシャとねじロック剤を追加) - 改善しなければマウントの剛性を確認(薄い 3D プリントは厚くする) - ベアリング部はガタ(遊び)がないかチェック
3D プリントのモータマウントが変形した
- PLA で作った場合、熱変形 の可能性(モータ温度が高い)
- PETG / ABS に変更、または金属スペーサーで熱隔離
ねじを締めすぎてマウントが割れた
3D プリントあるある。 - 熱圧入インサート を使う設計に変更(第 19 章 §3.3) - 割れたら割れ拡大前にエポキシ接着、再プリントがベター
サーボマウントがグラグラする
- サーボ側の耳(取付タブ)は薄いので、4 本ねじすべて 締めているか確認
- 3D プリントブラケットなら、取付穴を少し緩め(M3 なら φ 3.2)にしてサーボの位置調整ができるように
- サーボ交換用に 後付けアクセスできるレイアウト にしておくと便利
組み立てる途中で「ねじが締められない」ことに気づいた
工具アクセスの確保を忘れた典型。 - 組立順を見直す:「モータを置く前にねじを仮通し」「マウントを組んでからモータを載せる」で解決することがある - 長柄のドライバ or ボールポイント六角レンチ を用意(斜めから差し込める) - どうしても入らないなら設計を戻す:ねじ穴の位置をずらす、壁の一部を切り欠く、アクセス用の開口部を作る - 絶対にやってはいけないこと:ドライバを無理に斜めに差し込む、柄を叩く、プライヤで強引に回す → 工具破損・怪我の原因
モータ周りに手を入れていたら、急にモータが回って指が挟まれた
ロボット工作でいちばん多い 作業者の怪我 のパターンです。原因はほぼ例外なく 電源を切らずに作業していた こと。 - ジャンパ変更中にセンサ線に工具が触れて、プログラムがそれを「ライン検知」と解釈してモータを回した - 手のひらがマイコンのボタンに触れて、リセット後のデフォルト動作でモータが起動した - USB ケーブルがパソコン側から抜けかかり、再接続時の瞬間的な電源復帰で初期動作が走った
対策は 1 つだけ:ハードに手を入れる前に、電源スイッチを OFF、USB ケーブルを抜く。毎回やる。数秒の手間。
挟まれた後の対処:すぐに電源を切る/ケーブルを抜く → 指を慎重に引き抜く(無理に引くと裂傷)→ 流水で洗って消毒 → 必要なら病院。ロボットの軽いモータでも、指の皮膚は簡単に切れます。
8. 次章への橋渡し¶
モータがしっかり固定されたら、次はロボット全体の 重心・剛性・バランス です。
次の 第 29 章「重量・剛性・バランス」 では、倒れない・壊れない・振動しないロボットを作るための、重心位置と剛性配分の考え方を扱います。第 26 章の筐体設計、第 28 章のモータマウントが決まった段階で、全体としてどうバランスを取るかという視点です。