第 23 章 組立前チェック¶
電気側の 第 7 章「電気のテスト前チェック」 と対応する、機械側の 組立を始める前 のチェック章です。製作フェーズ(第 22 章)で揃えた部品を、BOM と突き合わせ、寸法と嵌合を確認し、組立で詰まらない状態に整える 工程を扱います。
この章で拾い漏らすと起こること
- 部品の入れ違い — M3 × 8 と M3 × 10 を混ぜて組んで、後で分解し直し
- 寸法不一致 — CAD 通りに発注したつもりが、現物は 0.3 mm 違う。組立途中で気づいて製作に戻る
- 部品欠品・破損 — 足りない or 割れたまま放置して、組立中に発覚して中断
- ねじ山不良 — 3D プリント部品のタップ切れ不足で、ねじを通そうとしたら割れる
最短で進める人向け(組立前チェック 15 分版)
- BOM の欠品チェックを先に行い、ねじサイズは別トレーに分離する
- 外形・穴径・板厚など主要 5 寸法だけ先に実測する
- 軸/ベアリング/ねじ穴の代表 1 箇所を仮組みして嵌合を確認する
- 配線経路と工具アクセスを実工具で当てて確認する
- 1 つでも致命的 NG があれば、第 22 章に戻って作り直す
1. 組立前チェックの位置づけ¶
| 工程 | 役割 |
|---|---|
| 製作(第 22 章) | 部品を作る |
| 組立前チェック(本章) | すべての部品が揃って、寸法・嵌合 OK であることを確認 |
| 組立中チェック(第 24 章) | 組みながら干渉・クリアランスを確認 |
| 機械のデバッグ(第 25 章) | 組上がったあと動作がおかしいときの切り分け |
本章は「組立を始める前の 最後の砦 」です。組立途中で「足りない」「合わない」が発覚すると、既に半分組んだものを分解して作業が倍になります。加工からの戻りを最小化する のが本章の狙いです。
2. 事前準備¶
2.1 作業スペース¶
- 平らで広い作業机(最低 60 × 90 cm)
- 部品を仕分けるトレーや小皿(ねじ・ナット・スペーサを種類別に分ける)
- ノギス、六角レンチ、プラスドライバ(測定・仮組み用)
- BOM と配線シート(第 5 章・第 21 章で作ったもの)
2.2 チェック順序¶
- (A) BOM 突き合わせ — 部品の種類と数量の確認
- (B) 寸法確認 — ノギスで主要寸法を実測
- (C) 仮組みでの嵌合確認 — 軸・軸受、ねじ・ねじ穴の相性確認
- (D) 電気部品との取り合い — マウント穴の位置確認
- (E) 配線経路の確保 — 組立後にケーブルが通るか
3. (A) BOM 突き合わせ¶
機械系 BOM(第 21 章 §6)を開き、すべての項目に現物がある ことを 1 項目ずつ確認します。
3.1 チェック項目¶
- BOM の カテゴリごと にトレーを 1 つずつ用意
- 各項目の 必要数 + 予備数 が揃っている
- ねじは サイズごと に分けて確認(M2 / M2.5 / M3 / M4 を混同しない)
- 長さ違いのねじ は別々に置く(M3 × 8 と M3 × 10 は外見で区別が難しい。ラベル付き小袋に分ける)
- ベアリング・スペーサ類の 型番を現物で確認(プリント文字が読めるなら照合)
3.2 不足・破損があったら¶
- 少数の不足(1〜2 個)→ 予備を使う、または別ルートで至急調達(Amazon、近隣のホームセンター)
- 大量不足 or 重要部品の破損 → 組立に入らず、製作フェーズに戻る
- 小さなひび・欠け → 強度が効く箇所なら交換、そうでなければ許容(判断は慎重に)
3.3 記録¶
BOM のそばに「実入荷数、不良数、備考」の欄を追加してマークしておきます。後日の追加発注や、プロジェクト終了後の予備ストック管理に役立ちます。
4. (B) 寸法確認¶
ノギスで主要寸法を実測 し、BOM や CAD 図面と一致するか確認します。
4.1 最低限測る項目¶
- 筐体の外形寸法(長さ・幅・高さ)が設計値 ±0.2 mm 以内
- 主要な穴の径(モータ取付穴、車輪穴、ねじ通し穴)
- 板の厚み(発注した材料厚と合っているか)
- ねじの長さ(首下から先端まで、数種類入り混じっているときに重要)
4.2 3D プリント品の寸法ズレの典型¶
家庭用 FDM プリンタは PLA で 0.2〜0.5% の縮み、PETG で 0.1〜0.3% の縮みが出ます。具体例:設計 100 mm → 実寸 99.5〜99.8 mm。φ 3 mm の穴を設計したら実測 φ 2.85〜2.94 mm になり、軸が入らない可能性があります。
- 設計で φ 3.0 mm の穴が 実寸 φ 2.85 mm → 軸が入らない
- 設計で 100 mm の長さが 実寸 99.5 mm → 他部品と合わない
これらは 設計側で事前に補正(第 21 章 §5.1)するのが基本ですが、検品で発覚したら:
- 穴が小さい → リーマ or ドリルで拡大
- 長さが短い → スペーサで調整 or 再プリント
- 反っている → 平らな台の上で加熱して矯正(PLA は 60℃ で軟化)
4.3 レーザーカット品の寸法ズレ¶
レーザーカットは カーフ幅(= レーザーで材料を焼き落とすときに消えてしまう幅のこと、0.1〜0.3 mm 程度)を業者が補正してくれますが、それでも誤差は出ます。カーフ幅を知らないと「設計 50 mm の外形を発注したのに、実測 49.8 mm になっている」のような小さなズレに戸惑うことになります。
- 外形がわずかに小さい → マスキングテープを貼って寸法追加(仮対応)
- 穴がやや大きい → ワッシャで調整
5. (C) 仮組みでの嵌合確認¶
主要な結合部を ねじを本締めせず、軽く仮組み して、入るか・回るか・干渉しないかを確認します。
5.1 確認すべき嵌合¶
- モータ軸と車輪 — すきま嵌めで車輪が軸に入る、イモねじを軽く締めて空転しない
- ベアリングと筐体 — しまり嵌めで筐体にベアリングが入る(斜め打ちに注意)
- シャフトとベアリング — すきま嵌めでシャフトがベアリング内輪を通る
- 板と板の重ね合わせ — ねじ穴が重なる位置にあるか
- 3D プリント部品のねじ穴 — タッピングを切るテストを 代表 1 箇所だけ 先に行い、割れないか確認。判断フロー:
- 同じ設計のねじ穴が複数あるとき、目立たない or 後から作り直しやすい箇所 を選んでテスト
- ねじを手で回しながら切って、抵抗が急に増えたら止めて引き返す(強引に回すと割れる)
- 割れずに切れた → 残りの穴も同じ手順で処理して OK
- 割れた → 全穴で同じ結果になる可能性が高い ので、設計を変更(熱圧入インサートに切り替え、または下穴径を 0.1 mm 拡大して再プリント)
5.2 嵌合不良への対処¶
| 症状 | 対処 |
|---|---|
| 軸が穴に入らない | 穴をリーマで拡大、または軸をやすりで削る |
| 穴がゆるすぎる | ワッシャを挟む、熱収縮チューブで軸を太くする |
| ベアリングが筐体に圧入できない | 穴を紙やすりで少し拡げる、ベアリング外輪を汚さないように |
| 板同士のねじ穴が合わない | 長穴に加工する(スロット状に削って位置調整を許容) |
| 3D プリントのねじ穴が割れた | インサートを使う設計に変更、または部品を再プリント |
6. (D) 電気部品との取り合い確認¶
マイコン・モータ・電池・センサなど電気部品の物理的なマウント が、機械部品と整合するかを確認します。
- マイコン基板のねじ穴位置と、筐体のねじ穴位置が一致
- モータ本体が、筐体のマウント穴に入る(特にフランジ形状に注意)
- 電池ボックスが、予定した搭載位置に入る
- センサの向き・位置が、想定どおりの検知エリアを向く
電気と機械の設計が並行して進んだ 場合、ここで「モータが微妙に大きくて筐体に干渉する」のような発覚があります。この段階で直すのがいちばん傷が浅い。
7. (E) 配線経路の確保¶
組立後に配線を通すのは、かなり面倒です。組立前に「このケーブルはこの経路を通る」を確認 しておきます。
- モータのリード線が、ドライバ基板までの経路を物理的に通る
- センサのケーブルが、マイコン基板までの経路を通る
- 電池ボックスのリード線が、DCDC or メインスイッチまでの経路を通る
- 可動部(車輪、アーム)の近くを配線が通る場合、巻き込まれないような余裕があるか
7.1 ケーブルの仮通し¶
主要なケーブルは 仮組み時に実物を通してみる のがベストです。長さ不足・経路の曲げ半径不足が早期に発見できます。
8. (F) 工具アクセス確認(「組み立てられない」を事前に見つける)¶
組立前に 工具が必要な箇所にちゃんと届くか を、仮組み状態で実工具を当てて 確認します。特に 3D プリント筐体 + ねじ締結の組み合わせでは、「設計上は入るはずだが、現物で試すと斜めに当たって回せない」という失敗が頻発します。
- ねじ穴ごとに、実際にドライバ(または六角レンチ)を当ててみる — 柄が壁に当たらず、垂直(または想定角度)で入るか
- 各ねじ穴の周辺に、工具の回転(プラスドライバなら柄をつかんだ手の回転、六角レンチなら 60°)に必要な円弧空間 があるか
- マイコンの USB 書き込みポートの真正面 が、筐体パネルや配線で塞がれていないか
- 電池交換時にアクセスする部分の カバーやふたが、他の部品を外さずに開けられる か
- コネクタ類を 指で掴んで引き抜ける空間 があるか
8.1 工具が入らなかったときの対処¶
- 組立順を変えて回避できないか試す(先にねじを仮通ししてから部品を載せる、等)
- ボールポイント六角レンチ・短柄ドライバ などの代替工具を用意
- どうしてもダメなら CAD に戻って設計変更(開口部を追加、ねじ位置をずらす、パネル分割数を増やす)
- 絶対にやってはいけない:工具を無理な角度で突っ込んで回す(ねじ頭をなめる、工具が折れて破片が飛ぶ、手を切る)
無理な工具操作で怪我しない
狭い場所でドライバを斜めに差し込んで力をかけて滑らせると、刃先が手のひらに深く刺さる 事故がホビー工作で意外と多いです。設計段階の工具アクセス確保は、部品の組み立てやすさ以上に、作業者の安全のためでもあります(詳細は 第 26 章 §6)。
9. チェック結果の判定¶
- 全項目 OK → 第 24 章 組立中チェック に進み、本格的な組立開始
- 軽微な問題あり(寸法微調整、ねじ 1 本追加発注など)→ その場で対処、再チェック
- 重大な問題(部品不足、寸法大きく違う、嵌合致命的 NG)→ 製作フェーズ(第 22 章)に戻る
検品結果を写真で残す
デジタルスケールの測定値、ノギスの読み、部品を並べた状態を スマートフォンで撮影 しておくと、後日「あれ?この部品は検品したっけ?」に即答できます。 プロジェクトごとに「検品アルバム」を作る運用が有効です。
10. 次章への橋渡し¶
部品が全て揃い、寸法と嵌合が OK になったら、いよいよ組立 に入ります。
次の 第 24 章「組立中チェック」 では、組みながら逐次確認する項目 — 締め付けトルク、可動部の干渉、配線の取り回し、組立順の計画 — を扱います。電気側の 第 8 章「電気のテスト中チェック」 に対応する章です。
組立は一度始めると後戻りが面倒なので、各ステップで止まって確認 する習慣を付けます。