第 22 章 製作フェーズ¶
電気側の 第 6 章「電気の組立フェーズ」 と対応する、機械側の 実物を作る 段階を扱います。設計フェーズで出した CAD データや寸法図を、物理的な部品 に変換する工程です。
本章では家庭でできる手加工、家庭用 3D プリンタでの出力、レーザーカット外注の使い分けを中心に扱います。
この章で壊しやすいもの・怪我しやすいもの
- 手・指(ドリル作業での巻き込み、やすりでの擦り傷、カッターでの切創)
- 目(ニッパで切った足が飛ぶ、ドリル切屑、3D プリントサポート材の破片)
- アクリル板(無理な手加工でクラック、ドリル熱で溶融して焦げる)
- 3D プリント部品(積層方向誤り、定着不良で反る、熱膨張で寸法ズレ)
- ドリル刃(材料に引っかかって折損、高速回転中の飛散)
初回はこの製作方針が安全
- 平板部品はレーザーカット外注、複雑形状だけ 3D プリントにする
- 回転工具での手加工は「下穴あけ・バリ取り」までに留める
- 出力前にスライサープレビュー(または 1:1 紙モック)で干渉を先に潰す
1. 製作フェーズの位置づけ¶
設計で作った CAD データと、機械系 BOM。これらから 実物の部品 を得る工程です。ここで作る部品を、次の組立前チェック(第 23 章)で検品し、組立(第 24 章)に渡します。
| 加工方法 | 向いている形状 | 主な選択肢 |
|---|---|---|
| 3D プリント(FDM) | 複雑形状、ブラケット、マウント | 家庭用プリンタ(所有 or 外注) |
| レーザーカット | 平板の切り抜き(底板、側板、歯車) | 外注業者(elecrow、ポンパレ、工房) |
| 手加工(ドリル・やすり) | 既製品の穴あけ、調整 | 自宅工具 |
| 切削(CNC) | 高精度な金属部品 | 外注、もしくは本格工房 |
本書の作例範囲では、3D プリント + レーザーカット + 軽度の手加工 の 3 本柱でカバーできます。
2. 3D プリント(FDM)の基本¶
家庭用の FDM(Fused Deposition Modeling、熱溶融積層)3D プリンタでの出力を想定します。Bambu Lab / Creality / Prusa などが定番です。
2.1 積層方向と荷重方向の向き¶
FDM 3D プリントは、樹脂を層状に積み上げて 物体を作ります。このため、層と層の境目は層内部より弱い という特性があります。
- 層と平行な荷重(層内の引張・圧縮・曲げ)→ 強い(通常の樹脂強度)
- 層と直交する荷重(層を引き剥がす方向)→ 弱い(層同士の接着力のみに依存)
2.2 積層方向を決めるコツ¶
CAD の部品を「どう置いて」プリントするかで、強度の出方が変わります。
- 主な荷重が水平方向 → 部品を 寝かせて プリントし、層を水平に積む
- 主な荷重が垂直方向 → 部品を 立てて プリントし、層を縦方向にする(ただし落下・衝撃に弱くなる)
- モータマウントのような複合荷重 → 複数の力がかかるため優先順位が要る。判定ルール:
- 常時かかる荷重を最優先(例:モータの自重 + 車輪の自重、これらは常に下向き)
- 突発的な荷重より定常荷重(走行時の横揺れは一時的、重力は常時)
- モーメントが効く軸を考慮(モータ軸の先端が下に垂れる方向の曲げ荷重が大きければ、この方向を層平行にする) 迷ったら「このマウントが壊れるとしたら、どこからクラックが入るか?」を想像し、そのクラック方向と層方向を直交させない(層が剥離しない)ようにする
2.3 スライス設定の目安¶
家庭用プリンタでの定番設定(PLA を想定):
| 設定項目 | 目安 | 備考 |
|---|---|---|
| ノズル温度 | 200〜215℃ | フィラメントによる |
| ベッド温度 | 50〜60℃ | 定着性と反り防止のバランス |
| 層高 | 0.2 mm | 精度と速度のバランス |
| 壁の厚さ | 3 周(約 1.2 mm) | 構造物なら 4〜5 周 |
| 充填率 | 20〜30% | 構造物なら 40〜60% |
| 充填パターン | Gyroid または Grid | 強度バランス良し |
2.4 サポート材とオーバーハング¶
- 角度 45° 以下のオーバーハング → サポートなしで出力可能
- 角度 45° 超 → サポート材が必要(サポート除去痕が残る)
- ブリッジ(2 点間の水平渡し) → 20〜30 mm まではサポートなしで出せる
設計段階で サポートなしで出せる向き を考えておくと、仕上がりが綺麗で手間も減ります。具体的な見分け方:
- スライサー(Bambu Studio、OrcaSlicer、Cura 等のソフト)に STL を読み込み、プレビュー画面で「サポートを有効」にしてから「サポートが生成される箇所」を確認 する
- サポートが大量に出る場合、CAD で 部品の向きを 90°/180° 回転させて STL を再出力、同じスライサーで再確認
- サポートなしで出せる向きが見つからない場合、設計を変更する(45° 以下の斜面に置き換える、オーバーハング部を別部品として分割する、等)
この「スライサーで試行→CAD で修正→再スライス」のサイクルを 2〜3 回回すと、サポート量が最小の向きが見つかります。
3. レーザーカット外注の基本¶
アクリル板やアルミ薄板(1〜2 mm)を切り抜く定番の方法。家庭でできる切断と違って 高精度で美しい 仕上がりが得られます。
3.1 発注までの流れ¶
- CAD で DXF 形式に出力 — Fusion 360、Inkscape、AutoCAD 等から
- 業者の要求するフォーマットに変換 — 線幅、色、ファイル名の命名規則など
- 見積もり依頼 — 多くの業者が Web アップロードで即時見積もり
- 発注・納品 — 3〜7 日程度で届く
3.2 発注時のチェックリスト¶
- 単位が mm になっている(inch のまま送ると寸法が狂う)
- 内穴と外形の線が重なっていない — 重複があると 2 度切られて部品が割れる
- 切断線だけが「切る」色、マーキングは別色
- 材料と厚みが正しい(例:アクリル透明 3 mm)
- 発注前に PDF プレビュー で確認(業者のプレビューがあれば必ず使う)
3.3 国内業者の例¶
- Elecrow(中国、価格安、納期長め 7〜14 日)
- 工房 Emerge+(国内、納期 3〜5 日、定番)
- レーザー加工ドットコム(国内、見積もり即時)
業者によって「切断線の色指定」「ファイル形式」が異なるので、各業者のガイド を最初に読みます。ガイドに典型的に含まれる項目:
- 対応ファイル形式(DXF、AI、SVG 等)と推奨バージョン
- 切断線の色コード(赤=切断、青=刻印、のような色分けルール)
- 線幅の指定(0.01 mm 等、ヘアライン指定が多い)
- 対応材料と厚み(アクリル ⅔/5/10 mm、ベニヤ ¾ mm 等)
- 最小加工寸法(5 × 5 mm 以下の細かい部品は切り離されない等)
- 原点・向きの指定
- 納期と送料の計算ルール
4. 手加工の基本¶
自宅の電動ドリルとやすりで対応できる加工:
4.1 穴あけ¶
- ポンチで位置決め — 中心点に打刻を入れないとドリルが滑る
- 小径から順に拡大 — 最終径が φ 5 mm なら、まず φ 2 mm で下穴、次に φ 3、最後に φ 5
- 材料をクランプで固定 — 手で押さえて穴あけするのは怪我の元
- 回転速度 — アクリルは低速(400〜800 rpm)、アルミは中速(1000〜1500 rpm)
4.2 やすりがけ¶
- 荒やすり → 細目やすり → 紙やすり の順
- 一方向に動かす — 往復すると目が滑る
- バリ取り — 切断面の角はすべて 0.5 mm 程度面取りしておく(手を切らない、組立時の擦れ防止)
4.3 安全姿勢¶
ドリル作業時の禁止事項
- 軍手をしない(回転部に巻き込まれる。素手または作業用手袋を使う)
- 長袖の袖口はボタン留めか捲る
- 長髪は結ぶ
- 必ず保護メガネ を着用
アクリル加工の特有リスク
- ドリル熱でアクリルが溶けて刃にこびりつく — 低速で少しずつ
- 引っかかって部材が割れる/跳ねる — クランプで 2 箇所以上固定
- クラック(ひび)が伸びる — 穴の近くに応力が集中、丁寧に拡大
5. 製作中の検品¶
加工した部品は、組立前(第 23 章)に最終検品しますが、加工直後にも簡易確認 しておくと手戻りが減ります。
5.1 3D プリント直後¶
- 層の剥離がないか(特に底面とサポート接触部)
- 反りがないか(底面が平らか、定規を当てて確認)
- ねじ穴・通し穴の径をノギスで測定
- 表面に穴(過度なインフィル不足)がないか
5.2 レーザーカット品受領時¶
- 指定した枚数が揃っているか
- 焦げや溶融痕が製品面でないか
- 主要寸法をノギスで確認
- 角が鋭利すぎないか(鋭利なら 0.5 mm 面取り)
5.3 手加工後¶
- 穴位置が図面通り(中心からの距離をノギスで測定)
- 穴が垂直に開いている(斜めだとねじが通らない)
- バリが残っていない
6. 製作フェーズの失敗パターン¶
3D プリント積層方向ミス
最頻出の失敗。設計時点で積層方向を考えていないと、強度が必要な方向に弱い部品ができる。 モータマウントのように振動と荷重がかかる部品は特に要注意。
レーザーカット発注時の重複線
同じ線を複数回描いてしまい、業者のレーザーが同じ場所を 2 回切断。部品が落ちる・焦げる。 CAD 上で重複線を削除するチェック を発注前に入れる。
手加工での位置ずれ
ポンチなしでドリルが滑って、穴の位置が数 mm ずれる。 必ずポンチ で打刻してから穴あけ開始する。
材料の取り違え
「アクリル 3 mm」と「アクリル 5 mm」を混同して発注。板厚が違うとねじ穴の深さや外寸が全て合わなくなる。 発注書類とは別に、実物を受け取ったときに厚みをノギスで測って確認 する。
怪我
安全装備を省略してドリル・やすり作業をする。軍手を履いて回転工具を使う。 「今日は少しだけだから」が一番危ない(第 1 章 §6 参照)。
3D プリントが失敗したまま放置して帰宅
長時間プリントで、途中で定着が外れたり糸引きで大量のゴミが出たり してもユーザは気付かない。そのまま数時間放置すると ノズルが固着、最悪の場合は 可燃物への延焼 リスク。長時間プリントは カメラで遠隔監視 する、または 初期数層だけ立ち会う のが安全。
STL のサイズ単位がインチだった
海外サイトで拾った STL を読み込んだら、25.4 倍の大きさ になってプリントできない(逆に 1/25.4 で極小)。スライサーで読み込んだ後は 寸法をノギスで想定と照合 してからプリント開始。
1 層目が定着せず、糸の塊(スパゲティ状態)に
ベッド温度不足、レベル調整不足、プリント開始時のノズル高さ狂いが原因。最初の 3〜5 層を目視で見届ける ことで早期に停止できる。スパゲティになったまま続行すると、樹脂がノズルに絡まって 分解修理 が必要に。
サポート材を剥がすときに本体も欠けた
サポートと本体の接点が強すぎて、サポート除去時に本体の一部まで持っていかれる。サポート密度を下げる(10〜20% 程度)、サポート接触面を 0.1 mm 空ける(Z gap 設定)ことで改善。
DXF に重複した線がある
CAD ソフトの「ミラー」「配列」操作で、同じ線が 2 本重なったまま DXF 出力。レーザーカット業者が 同じ場所を 2 回切断して部品が落ちる・焦げる。DXF 出力前に「線の重複を削除」機能を実行する。
レーザーカットの線幅・色指定ミス
業者の指定(例:切断は赤・線幅 0.01 mm、刻印は青)と違う色・線幅で出力 → 切断されるはずの線が刻印になった、または逆。発注前に業者のプレビュー画面で確認する。
板の厚みを取り違えて発注
設計時に 3 mm 想定で進めていたが、発注書に 5 mm と書いて加工依頼 → 他の部品の組み合わせが狂う。発注前に「板厚・材料・色」を 読み直して確認。
ドリルの位置決めでポンチを忘れた
鋼材やアクリルに いきなりドリル を当てると、刃先が滑って 5〜10 mm ずれて穴が開く。位置決めパンチ、またはセンタードリルで 浅い窪みを先に作る。
穴あけで貫通後に刃が持ち上がって二次的なキズ
ドリルが材料を貫通した瞬間、押す力が急に抜けて 下の作業台・部品を掘る。貫通直前で力を抜く・当て木を敷く。
手加工の切断面を素手で触って切創
アクリル・アルミの切断面は カミソリのように鋭利。軽く触れただけで皮が切れる。切断後は必ず ヤスリ or カッターで C 0.5 mm 程度の面取り。
3D プリント部品を机に置いたまま放熱不足で変形
出力直後の部品を、まだ熱いうちに ぐにゃっと曲がるような姿勢で置く と、その形のまま冷えて歪む。平らな面に置いて完全に冷えるまで触らない。
7. 次章への橋渡し¶
部品が揃ったら、組立に入る前に 検品 の工程があります。
次の 第 23 章「組立前チェック」 では、加工した部品と購入した部品をすべて広げて、BOM との突き合わせ・寸法確認・嵌合確認 を行います。電気側の 第 7 章「電気のテスト前チェック」 に対応する章で、組立段階で詰まらないための検証工程です。