第 7 章 電気のテスト前チェック¶
第 6 章 で組立が完了しました。ここは 組み上がったものに電源を入れる直前 のチェックフェーズです。本章のチェックを全項目パスするまで、絶対に電源を入れないでください。
本章は 第 2 章 §6 動作確認チェックリスト の電源投入前セクションを、ワークフロー章としての決定版 に展開した章です。以降のハンズオン章(Part IV 電気系トピック)はすべて、テスト前段階で 本章を参照 する運用になります。
この章のチェックをスキップしないこと
- 焼損事故の多くは、本章のいずれかの項目(配線ミス・ショート・電源分離不備・極性逆)を 通電前に確認していれば防げた ものです
- 「面倒だから」「今回は大丈夫そうだから」でスキップしたものが、数千円〜数万円の部品を煙にすることがあります
- 1 項目でも NG なら電源を入れない。これは訓練の問題ではなく、ルールとして守ってください
1. テスト前チェックの位置づけ¶
本章は 5 段階チェック(A〜E) から成ります。順番に実施し、いずれかで NG が出たら、第 6 章組立フェーズに戻って修正してから再実施します。
| 段階 | チェック内容 | 主な検出ターゲット |
|---|---|---|
| (A) 目視確認 | 配線シートとの突き合わせ、部品の向き | 配線ミス、部品の向き誤り |
| (B) ショートチェック | VCC - GND 間の短絡 | はんだブリッジ、被覆剥け、ジャンパ差し間違い |
| (C) 電圧一致 | 各 IC の VCC が正しいレールに繋がっている | 5V / 3.3V 混同 |
| (D) 電源分離 | V 分離 / GND 共通 | 電源系統の誤配線 |
| (E) 極性 | LED、電解 C、ダイオード、IC、トランジスタ | 逆挿入 |
所要時間の目安:慣れれば 10〜15 分。初回はルーペを片手に 30 分〜1 時間。組立に数時間かけたあとのこの数十分が、焼損事故の発生率を数十分の 1 に下げます。
2. 事前準備¶
2.1 テスタの初期設定¶
プローブは V / COM に差してあるか?
前の作業で A 端子に差したままになっていないかを確認してください。 A 端子のまま電圧測定や導通測定をすると、テスタ内部の低抵抗シャントが電源を短絡してヒューズが飛ぶ(第 2 章 §5.2)。
- 赤プローブが V 端子、黒プローブが COM 端子 に差してある
- テスタ本体を 導通モード(ブザー付き) に設定
- プローブ先端を触れ合わせてブザーが鳴ることを確認
- 電池残量 OK(液晶が薄くなっていない)
2.2 配線シート(Wiring Sheet)を手元に置く¶
第 6 章 §5.3 で作った配線シート(または配線写真)を広げます。これが「正解のリファレンス」になります。
2.3 電源が 完全に断 されていることを確認¶
- USB ケーブルが抜けている(PC 側・ボード側の両方を抜く)
- 電池が電池ボックスから外れている、または 電源スイッチで OFF
- AC アダプタのプラグが抜けている(コンセント側ではなく、ボード側 を抜く)
- 大容量コンデンサが残留電荷を持っていないか(第 1 章 §6.3 参照。数百 μF 以上は注意)
なぜ完全断が必要か
本章のチェックは 電源が入っていない状態でしか成立しない ものが多いです。 特に導通モード(§4, §5, §6 で使用)は、電源電圧がテスタに流れ込むとテスタ側を壊す可能性があります。 導通モードのテスタは 内部から微小電流を流して抵抗を測る 原理なので、外から電圧がかかっていてはダメです。
3. (A) 目視による配線確認¶
3.1 手順¶
配線シート(または設計図)を左手、実機を右手に持ち、1 つずつ指差しながら 次を確認します。
- 配線シートに書かれた すべての接続 が、物理的に存在する
- 配線シートに 書かれていない接続 が、物理的に存在しない(余計な配線がないか)
- ブレッドボードの場合、部品がどの列に差さっているか を 1 つずつ確認
- 特に DIP IC の列ずれ(1 列ずれて全ピンがずれている、あるあるのミス)
- 足が曲がって隣の列にも触れていないか
- ジャンパワイヤの 両端が正しい穴 に差さっている
- 被覆が剥けて裸導体が露出していないか
- 差しが浅くてぐらついていないか
- 極性部品(LED・電解・ダイオード・IC)の向きが正しい(§7 で再度詳細確認)
- 部品がシルク印刷(VCC / GND / RX / TX 等)通りに配線されているか
3.2 目視が拾えるもの/拾えないもの¶
拾える:配線ミス(繋ぎ忘れ、繋ぎすぎ、列ずれ)、明らかな部品の逆挿入、ジャンパ被覆の破損、大きなはんだブリッジ
拾えない:冷はんだ(外見は繋がっているが電気的に繋がっていない)、微細な隣接ピンブリッジ、見えない場所でのショート — これらは (B) のショートチェックで拾います。
目視にルーペを使う
肉眼だと見落とすレベルのブリッジや被覆剥けが、10 倍のルーペ だと容易に見つかります。ルーペは 500〜1,500 円程度で、コストパフォーマンスが非常に良い工具です。
3.3 NG が見つかったら¶
修正は 第 6 章 組立フェーズ に戻って行います。修正後は (A) からやり直し(他の場所が影響を受けていないか再確認するため)。
4. (B) VCC - GND 間ショートチェック¶
電源を入れると最も被害が大きいのが VCC と GND のショート。はんだブリッジ・ジャンパ差し間違い・被覆剥けのいずれでも起きます。
4.1 基本手順¶
テスタを 導通モード のままで、次の組み合わせを 1 つずつ当てます。すべてでブザーが鳴らない のが正解です。
- マイコンの VCC ピン ⇔ GND ピン
- ブレッドボードの + レール ⇔ - レール(左右の両方)
- 各 IC の VCC ピン ⇔ GND ピン(データシートでピン番号を確認)
- 5V レール ⇔ 3.3V レール(混在する場合。これも鳴ってはいけない)
- モータ電源の V+ ⇔ GND(別系統の場合)
4.2 ブザーが鳴ってしまったら¶
絶対に電源を入れない。ショート経路が存在します。次の手順で特定します。
- 鳴っている配線系統を把握する(例:マイコン VCC と GND 間が鳴る)
- ジャンパを 1 本ずつ抜く、または 部品を 1 つずつ外す
- 鳴らなくなった時に外したものが 疑わしい箇所 — その部品や配線の周辺を目視+ルーペで確認
- 見つかったら修正、再度 (A) からやり直し
消去法が効くのは分離可能な配線から
ブレッドボード上はジャンパを抜きやすいですが、はんだ付け済みの基板は 一度流れたら戻れない ので、目視+ルーペ確認の比重が高くなります。 はんだ付け時にルーペで毎接合点を確認しておくのが、ここで詰まない最善策です。
4.3 部品側のショート¶
配線にミスが見当たらないのにブザーが鳴る場合、部品自体がショート不良 の可能性があります。
- タンタルコンデンサは 経年や過電圧でショートモード故障 することが有名
- MOSFET は ESD(静電気)でゲート破壊 されるとドレイン-ソース間がショート
- 配線は切り離して部品単体で導通測定 → ショートを確認
5. (C) ロジック電圧の一致チェック¶
各部品が 正しい電圧のレールに繋がっているか を、導通モードで確認します。
5.1 手順¶
BOM(第 5 章で作ったもの)を開き、各部品の動作電圧を確認しながら:
- 5V 動作の部品(5V 電源のセンサ、ロジック IC など)の VCC ピンが、ボードの 5V ピンと導通
- 3.3V 動作の部品の VCC ピンが、ボードの 3.3V ピンと導通
- 3.3V 部品の VCC が 5V ラインと導通していない(逆も同様。5V 部品が 3.3V ラインに繋がっていない)
- モータドライバのロジック電源(V_CC) が、マイコンと同じロジック電圧レール(5V なら 5V、3.3V なら 3.3V)に繋がっている
- モータドライバのモータ電源(V_M) が、モータ用電源レール(電池 7.4V 等)に繋がっている(ロジックと同じレールになっていない)
5.2 I2C / SPI / UART のロジック電圧整合¶
通信バス上で 送り手と受け手のロジック電圧が違う 場合、レベル変換 IC を経由している必要があります(第 3 章 §5 の V_OH / V_IH 不等式)。
- 5V → 3.3V への信号線に レベル変換 IC が入っている(例:TXS0108E、FXMA108 など)
- I2C の プルアップ抵抗 が、受け手側のロジック電圧(5V なら 5V レール、3.3V なら 3.3V レール)にプルアップされている
レベル変換を忘れた時の典型症状
レベル変換なしで 5V マイコン → 3.3V センサに接続すると、通電直後にセンサが壊れます。煙が出ないこともあるが、センサが応答しない/値がおかしい という症状で後から発覚します。 テスト前チェック段階で 配線経路にレベル変換 IC が挿入されているか を目視と導通で確認してください。
6. (D) 電源分離チェック¶
ロジック電源とモータ電源を別系統にしている場合、物理的に分離しているか を確認します。第 4 章 §5 で扱った「V 分離 / GND 共通」の実装検証です。
6.1 V 分離の確認¶
テスタの導通モードで:
- 赤プローブを マイコン側の VCC ピン、黒プローブを モータ電源の V+ 端子 に当てる
- ブザーが鳴らない(V 分離 OK)
鳴ってしまったら:2 つの電源が物理的に繋がっています。典型的な原因:
- ジャンパを間違えてマイコン VCC とモータ V+ を接続
- モータドライバの V_M と V_CC を同じレールに繋いでしまった
- ブレッドボードの左右レールが内部で繋がっていることを忘れて混在させた
→ 第 6 章の組立フェーズに戻って修正。
6.2 GND 共通の確認¶
- 赤プローブを マイコン側の GND ピン、黒プローブを モータ電源の GND 端子 に当てる
- ブザーが鳴る(GND 共通 OK)
鳴らないと致命的 :GND 共通がないと、モータドライバのロジック入力が意味のない電位を指してしまい、通電直後に誤動作・IC 破壊します。
→ 第 6 章に戻り、GND 配線(スター接続)を確認。
6.3 チェック結果の 4 象限¶
| V 間 | GND 間 | 判定 | 対処 |
|---|---|---|---|
| 鳴らない | 鳴る | OK | 次の (E) へ進む |
| 鳴らない | 鳴らない | NG:GND 分離 | 組立に戻り GND 配線を追加 |
| 鳴る | 鳴る | NG:V 共通 | 組立に戻り V を分離 |
| 鳴る | 鳴らない | 致命的 NG | 配線全体の再確認が必要 |
7. (E) 極性部品の向き¶
通電前の最後の関門。極性のある部品の向きを、1 つずつ実機で 確認します。
7.1 部品別チェックポイント¶
LED
- 長い足(アノード)が + 側(電流が流れ込む側) に差さっている
- LED 本体の 平らな面(カソード側)が - 側(GND 側)を向いている
電解コンデンサ
- 白帯 or 「−」印字のある側 が GND 側に差さっている
- 短い足が - 側
- 絶対に逆挿入しない(電解液が沸騰して破裂、顔に飛ぶ危険あり)
ダイオード
- 本体の 帯の印刷側(カソード)が + → 負荷の方向を向いている
- 電流が流したい方向に、帯が下流 になっているか確認
- ショットキー、整流、フライホイール用途それぞれで向きが違うので、回路図を照合
IC(DIP パッケージ)
- 切り欠きまたは丸印のある側が 1 番ピン
- データシートの Pin Configuration と物理配置を 1 ピンずつ照合
- 同一パッケージでもピン配置が違う IC があるため、型番をラベルで確認
トランジスタ / MOSFET
- データシートで E/C/B(または S/G/D)のピン配置を確認(パッケージは同じ TO-92 でもメーカーで違う)
- 平らな面の向きが、データシートの図と一致する
- ピン順は 目視では分からない(トランジスタのパッケージには極性マークがないため、データシート必須)
7.2 NG が見つかったら¶
電源投入前の段階で見つかればラッキーです。
- 極性部品を引き抜いて、正しい向きで差し直す
- 電解コンデンサの場合、一度逆挿入で通電した個体は交換推奨(内部で劣化している可能性)
- はんだ付け済みの部品は、はんだ吸取線で外してから差し直し
8. 全項目の記録様式(作業ログ)¶
組立の大きさに合わせて、次の表をノートまたは作業ログに書き写して使ってください。
╔══════════════════════════════════════════════════════════════╗
║ プロジェクト: ___________ 日付: 2026/__/__ ║
║ 作業者: _______________ 配線シート Rev: _______ ║
╠══════════════════════════════════════════════════════════════╣
║ (A) 目視確認 ║
║ □ 配線シートとの照合完了 ║
║ □ 部品の列ずれなし ║
║ □ ジャンパ被覆 OK ║
║ ║
║ (B) ショートチェック (導通モード、全て鳴らないこと) ║
║ □ MCU VCC ⇔ GND 結果: 鳴らない / 鳴った ║
║ □ 左右 +/- レール 結果: 鳴らない / 鳴った ║
║ □ 5V ⇔ 3.3V レール 結果: 鳴らない / 鳴った ║
║ □ モータ V+ ⇔ モータ GND 結果: 鳴らない / 鳴った ║
║ ║
║ (C) 電圧一致チェック (導通モード、期待どおり繋がっていること) ║
║ □ 各 IC の VCC 正しいレールと導通 ║
║ □ 違うレールとは非導通 ║
║ □ レベル変換 IC 挿入確認 ║
║ ║
║ (D) 電源分離 ║
║ □ MCU VCC ⇔ モータ V+ 期待: 鳴らない 結果: _____ ║
║ □ MCU GND ⇔ モータ GND 期待: 鳴る 結果: _____ ║
║ ║
║ (E) 極性 ║
║ □ LED 長足 = + ║
║ □ 電解 C 白帯 = GND ║
║ □ ダイオード帯 = - 側 ║
║ □ IC 切り欠き = Pin 1 ║
║ □ トランジスタ (データシート照合済み) ║
║ ║
║ 結論: □ 全項目 OK → 第 8 章テスト中チェックへ ║
║ □ NG あり → 第 6 章組立に戻る(NG 箇所: ________) ║
╚══════════════════════════════════════════════════════════════╝
このフォーマットは 作業ログ(第 1 章 §6.4 の「作業ログを残す」) と直結します。数週間後に「このロボット、なぜ動かないんだっけ?」となったとき、ログを見れば組立時点で何をチェックしたかが分かります。
9. 見落としがちな馬鹿馬鹿しい失敗¶
上のチェックリストを全部通したのに動かない、という時は、次の 「言われると当たり前だが、確認を忘れがちな項目」 を順に見てください。初心者だけでなく経験者も踏む落とし穴です。
電源スイッチが OFF のまま
電池ボックスやハブに スイッチがある のに、OFF のまま「動かない」と悩む。スイッチの位置を目視確認。
USB ケーブルが PC 側で抜けかかっている
ボード側はしっかり挿さっているが、PC 側が緩く浮いている。USB が断続的に切れて書き込みが不安定に。両側とも奥まで差し込む。
プラグの極性は合っているが、電圧が違う
センタープラスで挿さるが、9 V ボードに 12 V アダプタを挿した。定格超過でボード死亡。アダプタの電圧表記を読んでから挿す。
電池を入れ忘れている or 逆向き
電池ボックスのふたを開けて、中に電池が入っていないことに気付く。または 1 本だけ逆向き で実質的に電圧が足りない。通電前に電池の向きを目視確認。
ケーブルの差し込みが浅い(半挿し)
Dupont ジャンパや JST コネクタが、差さっているように見えて 1〜2 mm 浮いている。揺らすと抜ける状態で組立完了扱い → 稼働中に抜ける。通電前にすべてのコネクタを押し込む。
モータの片方だけ配線忘れ
「両方繋いだつもりが、実は右モータの片方の線が半田付けされていない」。通電するとなぜか片方しか回らない。左右のモータ単体動作を順にテスト。
電源アダプタがコンセントに挿さっていない
AC アダプタをロボット側に挿した時点で満足して、コンセントに挿し忘れている。あるあるすぎて気付かない。
ブレッドボードの中央ギャップを超えて繋いだつもり
A-E 列と F-J 列は別ネット(第 6 章 §2.1)なのに、同じ列番号だから繋がっていると思い込んで 組立。通電前に導通モードで 1 列ずつ確認するのが無駄ではない。
抵抗の値を mega と k を取り違え
1 kΩ のつもりで 1 MΩ を挿している → 電流が 1/1000 に。LED は光らない、センサのプルアップは効かない。テスタの抵抗レンジで実測確認。
10. 全項目の判定¶
- 全項目 OK → 第 8 章 電気のテスト中チェック に進む(ここで初めて電源投入)
- 1 項目でも NG → 第 6 章 電気の組立フェーズ に戻って修正し、本章を最初から実施
NG のまま電源を入れない
「1 箇所だけなら大丈夫だろう」「原因は分かっているからそのまま入れよう」— 焼損事故のほとんどがこの判断から始まります。 NG は NG として、修正してからしか次に進まない という原則を、本書を通じて崩さないでください。
11. 次章への橋渡し¶
テスト前チェックが全項目 OK になったら、いよいよ 電源投入 です。第 8 章「電気のテスト中チェック」 では、投入直後の 10 秒・30 秒・1 分の観察ポイント、VCC の実測、温度確認、マイコンの書き込み・シリアル出力確認、ブラウンアウト検出を扱います。
テスト前(本章)が「入れたら壊れる事故を防ぐ」ためのチェックなら、テスト中は「入れた後に壊れそうな兆候を捉える」ためのチェック。両方揃って初めて、組み上がった回路を安全に運用できます。