第 29 章 重量・剛性・バランス¶
ロボットが 倒れない/壊れない/振動しない ための機械的な直感を扱います。個々の部品が正しくても、全体として バランスが取れていなければロボットは動きません。
本章では厳密な力学計算には踏み込まず、定性的な直感(第 18 章の方針)で読めるレベルに留めます。
この章で出会う失敗パターン
- 上部に電池を載せて 加減速で転倒
- 筐体の剛性不足 で、モータ駆動時に全体がたわむ
- モータと筐体の共振周波数 が重なって激しく振動
- 片側だけに重量が偏り 、直進させたいのに曲がる
この章のゴール¶
- 重心位置 を意識した部品配置ができる
- 剛性(曲げにくさ・ねじれにくさ)の直感で、部品追加の要否を判断できる
- バランスと共振 が走行や動作に及ぼす影響を予測できる
初心者向けの重量配置デフォルト
- 重い順に下へ置く(電池 → モータ → 基板)
- 左右対称を最優先し、配線は最後に微調整する
- 迷ったら「重心高さ <= トレッド幅の半分」を目安にする
1. 動機:軽く作るだけでは動かない¶
「軽ければ良い、剛性があれば良い」は単純な発想で、実際にはトレードオフが多くあります。
- 軽すぎる → モータの反動で車両ごと揺れる、ブレーキ時に前のめり、小さな衝撃で飛ぶ
- 重すぎる → モータトルクが足りなくなる、電池消費が激しい、減速距離が伸びる
- 剛性が高すぎる → 重くなる、衝撃を吸収できず部品に直接衝撃が伝わる
- 剛性が低すぎる → モータ駆動で筐体がたわみ、センサ位置がズレる、振動する
本章で扱う 3 要素(重量、剛性、バランス)は、どれかを極端にすると他の問題が生まれる 関係にあります。
2. 素朴な(NG)設計:電池を一番上に載せる¶
NG 例¶
- 筐体:180 × 140 × 60 mm のアクリル製
- 電池ボックス(重量 100 g)を筐体の天面 に両面テープで貼り付け
- マイコン・モータ・センサは筐体内部(下半分)に搭載
- 総重量:200 g、重心は筐体の上から ⅓ 付近(高い)
走行テスト:
- 低速では問題なく動く
- 急加速すると後ろに、急減速すると前に傾く
- 方向転換(左右に急ハンドル)で 横転する
3. なぜダメか:重心が高いと転倒モーメントが増える¶
3.1 転倒モーメントの直感¶
加減速時、重い物体には 慣性力 が働きます(急ブレーキで体が前に倒れる感覚)。
- 重心が高い → 慣性力が高い位置にかかる → てこの原理で転倒しやすい
- 重心が低い → 慣性力も低い位置 → 車輪の内側で受け止められ、転倒しにくい
ざっくり言えば、転倒のしやすさ ∝ 重心の高さ です。
3.2 接地面の広さも効く¶
もう一つの要素として、車輪間の距離 があります。自動車用語を借りて:
- ホイールベース(wheelbase)= 前輪と後輪の中心間距離(= 前後方向の車輪の間隔)が長い → 前後方向の安定性↑
- トレッド(tread)= 左右の車輪の中心間距離(= 左右方向の車輪の間隔)が広い → 左右方向の安定性↑
ロボットを上から見下ろしたとき、4 つ(または 2 つ)の車輪が作る四角形(または線)が大きいほど、その内側に重心が収まる余地が大きくなります。
重心の高さと、接地面の広さの 比率 で転倒しやすさが決まります。高さ ÷ 接地面の幅 が 1 を超える と転倒リスクが大きく上がる、というのが実用的な目安です。
具体例: 長さ 200 mm、幅 140 mm のロボットで、重心が高さ 60 mm の位置にある場合、左右方向の比率は 60 / 140 ≒ 0.43 で安全域。前後は 60 / 200 = 0.30 でさらに安全。一方、天面に電池を載せて重心が高さ 150 mm になった場合、150 / 140 ≒ 1.07 となり転倒リスク域に入ります。
3.3 具体的な重量配分の典型¶
200 g のロボットの典型的な重量内訳:
| 部品 | 重量 | 位置の推奨 |
|---|---|---|
| 電池(単 3 × 4 本) | 100 g | 最下層(底板付近) |
| モータ × 2 | 50 g | 底板〜中層(車軸の高さ) |
| マイコンボード(Arduino Uno) | 25 g | 中層 |
| モータドライバ | 5 g | 中層 |
| センサ | 5 g | 中層〜上層 |
| 筐体・ねじ類 | 15 g | 全体に分散 |
電池が総重量の半分を占める ため、電池を底板付近に配置 するだけでロボット全体の重心が大きく下がります。
4. 正しい設計:重心を低く、対称に、剛性を確保¶
4.1 重心を低くする¶
- 電池は底板直上(可能なら底板の下の空間に吊る)
- モータは車軸の高さで、モータ本体を筐体の下半分に収める
- 上に来る部品はマイコンボード程度の軽量品 に絞る
4.2 重量を対称に配置¶
- 左右のモータ・車輪は当然対称
- 電池を中央に置く、あるいは左右 2 分割(単 3 × 2 を左右に配置)
- センサの配置は中央線に対して対称を意識する
4.3 剛性を確保する¶
剛性は「曲げにくさ」「ねじれにくさ」の指標です。
- 厚板を使う(第 26 章 §3:厚さの 3 乗で剛性が増える)
- 閉じた形状を作る(箱型は板状より強い)
- リブ(補強材)を入れる(L 字の横に小さな板を入れるだけで曲げ剛性は 2 倍以上)
- ねじ止め点を増やす(多点支持は荷重を分散する)
4.4 軽量化のタイミング¶
設計初期は 剛性優先(厚め、重め)で作り、動作確認後に「ここは重要ではない」部位を軽くするのが実用的です。
- 3D プリント部品:充填率を下げる、リブを抜く
- アクリル板:不要な穴を追加(機能部は残す)
- アルミフレーム:短くする
「軽くしてから剛性不足で作り直し」は時間がかかります。最初から軽く作ろうとしない。
5. 振動と共振¶
モータは必ず振動します。その振動が筐体の 固有振動数 と一致すると、共振 を起こして振動が増幅されます。
5.1 共振の見つけ方¶
- 特定の回転数でだけ激しく振動 する → 共振の可能性大
- 回転数を変えても常に同程度の振動 → 単なるアンバランス(車輪・ギア)
- 稼働時間の経過で振動が増える → ねじ緩み(第 28 章)
5.2 共振の対策¶
- 筐体の剛性を上げる(固有振動数を上げる方向)
- 質量を追加する(固有振動数を下げる方向)
- モータの回転数を変える(PWM Duty 比を調整、ギア比を変える)
- 防振ゴム を挟む(第 28 章 §5.2)
どの方向に動かすかは、試してみる のが早道です。質量を追加して改善すればそのまま、悪化すれば逆方向(剛性追加)に動かす。
5.3 アンバランス(共振ではない振動)¶
共振ではなく単純な 重心ずれによる振動 も多くあります。
- 車輪の重心が軸中心にない → 回転時に遠心力の不均衡
- 対策:車輪を軸から外してバランス用おもりを追加、または別の個体に交換
- プロペラやファンが片寄っている → 同上
- 搭載物の重量が左右非対称 → 配置を見直す
6. 動作確認チェックリスト¶
6.1 設計段階¶
- 重量内訳を書き出し、重量上位 3 項目 の位置を決めた
- 電池が 下層 に配置されている
- 左右対称 or 意図的な非対称(例:センサ 1 個のみ)が理由付きで許容されている
- ホイールベースとトレッドが、重心高さ以上になっている
6.2 完成後(静止時)¶
- ロボットを前後左右に傾けて みて、転倒する角度を確認(15〜30 度までは耐えるのが目安)。手順:① 平らな机にロボットを置く、② 机の片側を本やブロックで徐々に持ち上げる(または電源 OFF 状態のロボットを手で傾ける)、③ ちょうど転倒する角度を分度器 or スマホのアプリ(水平器)で測る、④ 前後 → 左右 → 斜めの 4 方向で確認
- 指で筐体を押して、たわみが視認できない
- 上下左右に振ったとき、内部でガタつく音がしない
6.3 稼働中¶
- 加速時・減速時にロボットが 前のめり/後ろに傾く 挙動が過度でない
- 急ハンドル時に 左右に転倒 しない
- 特定の回転数で異常振動(共振)が出ない
- 長時間稼働でねじが緩んでこない
7. よくあるトラブル FAQ¶
急発進すると後ろに転がる
重心が高い or 後方に寄っている。 - 電池を前寄り・低層に移動 - ホイールベースを長く(モータ位置を前後にずらす) - ソフト側で PWM の立ち上がりを緩やかに(急加速を避ける)
直進させているつもりが曲がる
原因は複数。まず機械 vs 電気の切り分け(第 25 章 §1)。 - 左右のモータ特性差なら、PWM で補正(速い側を遅くする) - 左右の重量配分が非対称なら、電池位置で調整 - 車輪径のわずかな差でも発生するので、車輪の周長 を実測して比較
モータ駆動時に特定回転数でガタガタ大振動
共振。 - 回転数を変える で避けるのが最速 - 防振ゴム をモータマウントに追加 - 質量追加 で固有振動数を下げる(電池位置を変える等)
筐体がたわんでセンサの向きが狂う
剛性不足。 - 板厚を増やす(アクリル 3 → 5 mm) - 補強リブ を追加 - センサを重心近くに配置 して、たわみの影響を減らす
重くしすぎた結果、モータが非力に感じる
重量超過でトルク不足。 - 電池容量を減らして軽量化(運用時間と引き換え) - モータを大きいもの(高トルク)に交換 - 減速比を上げてトルク倍率を大きく(ただし速度は落ちる)
8. 次章への橋渡し¶
機械系トピックの最後は 配線の機械的管理 です。電気を守るのも、実は機械の仕事です。
次の 第 30 章「配線の機械的管理」 では、電気系の章(第 6 章、第 9 章)で組んだ配線が、機械的な振動・摩擦・引っ張りに耐えるように守る方法を扱います。Part VII の締めくくりです。